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小説 「君に何が残せたのかな」-5

~結城 side~

久しぶりにぐっすり眠れた。
そんな感覚だった。
オフィスの椅子で寝ていた日々を思えばベットで眠るとこれほどまで快適なのかと思えた。
ただ、時計は不思議とまだ朝の7時だった。
時間はあるほうがいい。遠くにこの1週間は。
思えば私には自由に過ごせる時間はこの1週間くらいなのかも知れない。
これからの1週間。
私はどう過ごしたいのかを考えていた。
行きたい場所がある。
逢いたい人もいる。
だが、私はもう決めていた。
目の前の山積みになっている手帳を見ていた。
そう、私がこれからすることはこの中にヒントがあるはずだ。
もし、綾の過去を知らなければこれほど悩まなかったかもしれない。
私は回想を紐解いていった。



定例訪問。
よくわからない言葉だった。
ただ、決まった日にこの大学に来ているのも事実。
自然も見えるこの場所にわざわざ時間をかけてくる。
それも、この大学の生徒でもないのに。
私は授業をサボって待っていた。

私のいる大学は少し変わった大学だ。
大学内に学食も4つある。
値段設定もメニューも違う。
一番遠い第四食堂はまるでレストランのようなつくりになっている。
そして、値段も一番高い。
そう、第一から第四にかけて金額が上がっていくのだ。
もちろん、広さも違う。
第一は大勢が集まれるように広く、いつも騒がしいが、第四は静かで、まるで高級レストランさながらだ。
綾が持っていたレシートはこの第四食堂の近くにある持ち帰りコーナーだった。
毎週ここで買っている。
私は第四食堂前にあるベンチに座っていた。
時間をつぶすためにタバコを取り出す。
ベンチにもたれながらマルメンライトに火をつけた。
遠くから綾がやってきた。
一人だった。
まっすぐに第四食堂へ歩いてきている。

「こんにちは」

私は声をかけた。
一瞬ビックリした綾だったが、その後は普通だった。

「こんにちは。
 あ、結城さんはここの大学ですものね
 今日は第四なんですか?」

そう話してきた。
いつもは第一食堂で350円の日替わり定食を食べている。
第四食堂は全てが1000円というあの頃の私には一日にかけられる食費では到底なかった。
そう、ここの食堂に来るのは親がお金持ちか、もしくは何かかわったバイトをしている人だ。
そうでないと、大学生が一日1000円もお昼にはかけられない。
私はなんとくなそうこういった。

「ちょっと、パチンコで勝ったからね。
 だから今日は豪華な食事って思ったんだ」

確かに少し前にパチンコで勝ったのも事実だ。
何気なく暇つぶしでいったら勝ってしまったんだ。
普段はやらない。
時間があまってどうしようもないときに行くくらいだ。

だが、綾は疑うことなく信じてくれた。

「じゃあ、ご馳走になろうかな~」

笑っている綾を見て、冷静な自分とそうでない自分がいることがわかった。
冷静な自分は2000円だぞと話していた。
けれど、もっと冷静な自分は2000円くらいなんとかなるさ。
って、私を説得をしつづけていた。
気が付いたら

「いいよ」

と言っていた。
私自身中に入るのが始めてな第四食堂に綾と入った。

第四食堂。
洋館のよう建物の中は中世の世界にタイムスリップをしてきたかのようだった。
丸いテーブルに青いテーブルクロス。
その上からキレイな真っ白なテーブルクロス。
第一食堂のむき出しのテーブルに、安いパイプ椅子とは大きな違いだ。
ここまで差をつける必要はあるのだろうか。
私はそう思っていた。
メニューを見る。

白身魚のムニエル
牛ヒレ肉のステーキ
本日のパスタ
本日の魚料理
本日の肉料理
シェフお任せコース

と書かれていた。
本当にここは学食なのだろうか。
私はくらくらとしてしまった。
値段はどれも1000円。

綾はメニューを見てこういった。

「シェフのお任せコースってなんなんだろう。私、これ頼みたいけどいい?」

そう言ってきた。
私も気になっていたけれど私は本日の肉料理を頼んだ。

前菜が出てきて、パンとスープ。そしてメインが出てきた。
私はラムチョップのラタトゥーユ包みローストというよくわからないものが出てきて、
綾はシャラン鴨とポルチーニのラグーというこれまた初めて聞いた料理名が出てきた。

「なんかすごい」

私も綾も同じ感想だった。
同じ学食なのに、ここまで違っていいのだろうか。
目を丸くして、出てきた料理を見ていた。
壁に書かれているポスターの文字を来た。

「元リーガロイヤルホテルシェフの味を」

綾はそのポスターを見てこういった。

「いつかちゃんとしたホテルで食べてみたいよね」

出されている料理に不満はなかった。
雰囲気も学食というよりレストランという感じだ。

ただ、これ以上があるのならば見て、食べてみたい。
確かにそう思った。

「そうだね。
 ま、学生だと厳しいかも知れないけれどね」

私は苦笑いをした。
そう、ここですら精一杯の背伸びだ。
これ以上となると今の私では無理だな。

私はそう思っていた。
料理も食べ終わり、食後のデザートが出てきた。
アイスにフルーツ。
まるで本当にレストランに来たみたいだった。

私はデザートのバニラアイスを食べながら、綾に聞いた。

「今日はどうして大学に?」

不自然じゃないはずだ。
だって、綾はここの学生じゃない。
それだけは解っている。
そう、検索で出てこなかったからだ。

「実は人を探しているの。近江ヒロっていう人」

綾はおいしそうにアイスを食べながら話してくれた。
名前がわかっているなら学生課で検索することも可能だ。
私は協力をしたかった。いや、かっこいいところを見せたかったんだ。多分。
気が付いたら提案をしていた。
だが、綾は違った。

「検索は友達がこの大学にいるから調べてもらったの。
 そしたら、休学中なんだって。
 そういわれたの」

友達がこの大学にいるのか。
だからこの大学内も詳しいのか。
なんとくだが納得をしていた。

「友達はどこの学部なの?」

私はそういえば、大学に来てからどちらかというとなんとなく今を過ごしている。
だけど、同じ学部ならばある程度誰かを当たればわかるのかも。
休学中でも調べてみるか。そう、軽い気持ちで聞いた。
綾は答えてくれた。


「経済学部の真野あおいよ。
 あんまり大学には来ていないけれど、高校の時からの友達なの」

このあおいとは数年後に違った形で再会をする。
そして、その再会の後に私と綾はあおいと別れることとなったんだ。

綾と別れてから、会計でビックリした。
2000円と思っていたらデザートは別で、3000円だった。
仕方がない。
私はそう思いながら一人学生課にいった。

そう、二人を調べに。
一人は、真野あおい。
確かに私と同じ経済学部だった。
もう一人、近江ヒロを検索した。
だが、検索に出てきたものは休学ではなく『退学』であった。
学部は同じく経済学部。
入学してすぐの退学。
違和感だけがずっと残っていた。



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